行方不明者の戸籍上の取り扱い
~ 失踪宣告
未曾有の大震災となった「東日本大震災」から1年が経過しようとしています。お亡くなりになった方々やその家族・関係者の皆様には心より哀悼の意を表します。震災から1年、津波により未だ3,000人を超える「行方不明者」の方々がいらっしゃいます。行方不明の方々が戸籍上どうなってしまうのかということは一般的にはあまり知られりません。ご家族の気持ちを思うと心苦しいところですが、本号では、震災等危難時を含む行方不明者の戸籍上と取り扱いとして「失踪宣告」について解説したいと思います。
もともと人の戸籍を消す為には、当事者の死亡が確認されなくてはなりません。そして、死亡を確認する為には本人の死体がなければなりません。とすると、失踪者の場合、戸籍上は永遠に生き続けることになってしまうのです。
これによって困るのは残された家族たちです。本人の死亡が確認されないかぎり、本人失踪後、何百年経とうが相続や保険金の支払いが行われないからです。住民税も生きている人と同じようにかかるのです。残された配偶者は、他に好きな人ができても再婚できません。
こういった不都合を解消するために、国が失踪宣告という制度を設けて法的に死亡を確認することを行っているのです(失踪宣告の申請は義務ではありません、別に申請しなくてもかまいません)。
※ 死亡は確実だが死体確認ができない場合については、戸籍上死亡の扱いがなされる「認定死亡」の制度が用いられます。
失踪宣告には2種類、①危難失踪と②普通失踪があります。
東日本大震災の場合、平成24年3月12日以降失踪宣告の申立ができるということになります。
1 申立人
利害関係人(不在者の配偶者,相続人にあたる者,財産管理人,受遺者など失踪宣告を求めるについての法律上の利害関係を有する者)
2 申立先
不在者の従来の住所地の家庭裁判所
3 申立に必要な費用
• 収入印紙800円分
• 連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ要確認)
• 官報公告料4179円(失踪に関する届出の催告2650円及び失踪宣告1529円の合計額)
• 司法書士又は弁護士費用(専門家に依頼される場合)
4 申立に必要な書類
(1) 申立書
(2) 標準的な申立添付書類
• 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
• 不在者の戸籍附票
• 失踪を証する資料
• 申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書))
5 宣告までの期間
危難失踪で2~3ヶ月、普通失踪で8ヶ月くらい後に失踪宣告がなされます。
1 離婚に関して
離婚に関しては失踪宣告よりも緩やかな対応が用意されています。
一方的に配偶者に失踪された者にとって、7年という月日は長すぎます。その間、ただひたすら失踪者が帰るのを待っているのではあまりにも辛く不自由なことから、民法770条3項では3年以上配偶者の生死が明らかでない場合の離婚を可能としています。
2 失踪宣告後、本人が戻ってきたら
失踪宣告後、本人が帰ってきた場合に備えて失踪宣告取消の申立ができるようになっています。
手続きは、本人や家族が「実は生きていました」と家庭裁判所に申立するだけです。
これで基本的には身分も財産も、失踪前の状態に戻るわけですが、残念ながら全てが元に戻るわけではありません。まず、配偶者が離婚手続きをしていて、別の人間と再婚していた場合、再婚の方が認められることになります。また、財産についても同じような処置が取られ、既に財産が分配されていた場合、既に費消された分は取り戻すことが出来ません。
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