~ 知らなくてもなんとかなるかもしれないけど、知ってたらきっと役立つ情報をお届けします ~
第141号 平成29年3月 発行
遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)
A COLUMN ~記事~
アイデンティティーの喪失 ~ 父子家庭の終焉
私事で大変恐縮ですが、先日当職は再婚いたしました。良いご縁があって、大変喜ばしいことではあるのですが、ひとつだけ問題があります。この再婚によって、当職は「父子家庭の司法書士」ではなくなってしまったのです。
この6年間、当職は、3人の子どもの父親として家事育児全般を担いながら、司法書士事務所を経営するという離れ業をこなす「スーパー父ちゃん」でした(←自画自賛)。わが家の環境を知る人たちからは、「すごいね!」「がんばってるね!」と常にお褒めの言葉をかけていただいておりました。実際には、当職がすごいのではなくて、事務所スタッフをはじめ、当職を支えてくれる周りの人たちがすごかったんだと思っていますが…
なにはともあれ、この再婚により、当職は「父子家庭」という看板を外さなければならなくなったのです。もう誰も「すごいね!」とは言ってくれません。父子家庭であることは、ここ数年、当職のアイデンティティーでした。「長島といえば父子家庭」、「父子家庭といえば長島」と言っても過言ではない(過言ですが…)くらい周りに浸透していたのに…。幸せな再婚と引き替えに、アイデンティティー喪失の危機を迎えてしまったのです!
ということで、これからしばらく、当職は新たなアイデンティティーを模索することにします。複雑な家庭環境に自ら飛び込んできてくれた嫁に感謝して「愛妻家の司法書士」としてやっていくのがよいのか。はたまた、今まで家庭に割かれていた時間を仕事に費やし「馬車馬のように働く司法書士」となるべきか。「スタッフ想いの司法書士」、「カリスマ経営者としての司法書士」、「働かない司法書士」…
「○○の司法書士」
これから数年で、どう呼ばれるようになるのか、自分でも、少し楽しみだったりもします。
EXPLANATION ~解説~
遺留分減殺請求 (いりゅうぶんげんさいせいきゅう)
昨今、遺言や生前贈与によって、生前に自己の遺産の処分方法を決めておきたいという方が増えています。
例えば、「東京へ行ってまったく帰ってこない長男ではなく、自分の面倒を観てくれる二男に財産を残してあげたい。」という場合、「二男に全財産を相続させる」という「遺言書」を作成することで、実際に二男に全財産を相続させることができます。
でも、何ももらえなかった長男側からしたら、「俺も親父の息子なのに…」とか「東京に転勤になる前は俺が親父の面倒を観ていたのに…。」と不満に思うこともあるでしょう。
その長男に「本来もらえるはずの相続分の半分」を二男に対して請求できるという権利を与え、相続人間の不均衡を是正し、被相続人と相続人たち両者の利益を調整しようというのが「遺留分減殺請求権」です。
① 事例と回答
<事例> A、Bの父親Cが、1億円の財産を残して亡くなりました。A、Bには他に兄弟もおらず母(Cの配偶者)もすでに亡くなっているため、Aは遺産の半分5000万円を相続できると考えていたのですが、実際にはそうはいきませんでした。Cは生前に「Bに対し財産のすべてを相続させる」という内容の遺言書をのこしていたからです。
Aは、Cの遺産を一銭ももらうことはできないのでしょうか?
<回答> Aは、Cの財産すべてを相続したBに対し、「遺留分減殺請求」をすることで、本来の相続分の半分2500万円を取得することができます。つまり、遺言等で排除されたとしても、請求をすれば「本来もらえるはずの相続財産の一部」はもらうことができるのです。
② 「遺留分」の割合
遺留分は、誰が相続人になるかによって、割合が異なります(民法第1028条)。
①両親のみが相続人となるとき(配偶者・子供がいない場合) → 被相続人の財産の「3分の1」
②その他の場合(配偶者と子供、又は両親) → 被相続人の財産の「2分の1」
子供・両親が数人いるときは、各割合をその人数で均等に割ります。また、代襲相続人にも遺留分が認められます(民法第1044条)。
<遺留分算定の具体例> ~ 遺産が1億2000万円としていくら遺留分減殺請求できるのか?
① 「配偶者と子供2人」が相続人の場合
配偶者 : 2分の1(法定相続分) × 2分の1(遺留分割合) = 4分の1 → 3000万円
子供 : 2分の1(法定相続分) ÷ 2人 × 2分の1(遺留分割合) = 各8分の1 → 各1500万円
② 「配偶者と両親2人」が相続人の場合
配偶者 : 3分の2(法定相続分) × 2分の1(遺留分割合) = 3分の1 → 4000万円
両親 : 3分の1(法定相続分) ÷ 2人 × 2分の1(遺留分割合) = 各12分の1 → 各1000万円
③ 「両親2人のみ」が相続人の場合
両親 : 全部(法定相続分) ÷ 2人 × 3分の1(遺留分割合) = 各6分の1 → 各2000万円
④ 「配偶者と兄弟姉妹3人」が相続人の場合
配偶者 : 4分の3(法定相続分) × 2分の1(遺留分割合) = 8分の3 → 4500万円
兄弟姉妹 : 4分の1(法定相続分) ÷ 3人 × 0 = なし ※ 兄弟姉妹に遺留分はありません
③ 注意点
・遺留分には事前放棄が認められている(家庭裁判所の許可が必要)
・遺留分の時効は相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間、相続の開始の時から10年間
・実際に減殺請求しなければ、いくら請求権があっても財産は返ってこない
・遺留分減殺請求は内容証明郵便で行うべき(請求をした旨、期限内の請求であったことの証拠を残すため)
ご不明な点がございましたら、当事務所へお問い合わせください。