~ 知らなくてもなんとかなるかもしれないけど、知ってたらきっと役立つ情報をお届けします ~
第164号 平成31年2月 発行
「自筆証書遺言」が変わります ~自筆じゃなくてもいいの?
A COLUMN ~記事~
備えあれば… ~ 雪降りませんね
今年は雪が積もりませんね(岡崎市南部・2月3日現在)。岡崎市は例年1度か2度積雪に見舞われます。めったに積もらないのですが、「雪が降ったからお休み」というわけにはいかないので、当職の車にはスタッドレスタイヤを履かせています。何年かに一度は、そのスタッドレスタイヤがまったく活躍しない冬があります。それでも、「備えあれば憂いなし」ということで、安心のために無駄になっても毎年履かせています。
当職の鞄には、普段まったく使うことのない書類がたくさん入っています。白紙の領収書や書類の預かり証、役所で証明書を取得するための用紙、予備の委任状、権利証がなかった場合に必要となる書類等々…。そのほとんどが、めったに日の目をみません。中には5年以上前から使用することなく鞄に入っている書類もあります。でも、持っていることでトラブルを回避できることもあります。
お
客さんが権利証を持ってこなかった時、知らないうちに住所を移転してしまった時、住民票を忘れた時、不動産業者さんが領収書を忘れた時…等々、登記ができずに仕切り直しにならないよう、いざという時の安心のために、まさに「備えあれば憂いなし」です。
お客様のために、今日も当職は無駄に重い鞄を抱えて走り回っています。
EXPLANATION ~解説~
「自筆証書遺言」が変わります ~ 自筆じゃなくてもいいの?
遺言書には、いくつかの方式がありますが、良く用いられているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の二つです。
自筆証書遺言というのは、自分の手ですべての内容を書くこと、日付があること、及び署名押印が必須の要件となっていました。これらの要件を満たさない場合には、遺言書は無効となってしまうので、後で争いとなることが多い遺言の形式でした。
特に、自署の部分は、その筆跡が問題となったり、すべてが自署でないといけないので、財産の目録すらすべて手書きでなければならないため、多くの不動産や金融資産がある方にとってには、大変な作業でした。
そこで、「自筆証書遺言」を作成、活用しやすいような見直しが行われたのです。
1.改正点① 財産目録のパソコン作成が可能に
自筆証書遺言に遺産目録を付ける際には、その目録は自署ではなく、パソコンなどで作成したものでも良いことになりました。(平成31年1月13日施行)
ただし、その目録が本人の意思で作成したことを確認するために、目録には署名押印が必要であり、目録が複数枚にわたる場合には、すべてのページに署名押印が必要となっています。つまり、両面印刷の場合には、両面に署名押印が必要ということですので、片面に署名押印しただけでは不十分だということには注意が必要です。もし、この署名押印がない場合には、すべてが無効になるわけではありませんが、目録によって遺産が特定できず、不動産の登記や口座の解約ができないということもあり得ます。そのため、目録の作成は自署である必要はなくなりますが、その要件を満たしているかについては、慎重に検討する必要があります。
なお、目録はパソコンなどで作成したものだけではなく、登記事項証明書や預貯金通帳の写しでも良いとされています。
2.改正点② 遺言書の保管制度
遺言者は、自ら作成した自筆証書遺言について、遺言書保管所として指定された(住所地、本籍地、所有不動産の所在地を管轄する)法務局に対して、当該遺言の保管申請を行うことができることになります。
当該法務局に保管された自筆証書遺言については、検認手続を要しないこととされています。
(※ まだ施行されていません。施行日は制令で公布されます。)
遺言書の保管をしてもらうことによって、遺言が発見されないということを防ぎ、遺言の保管時に遺言者であることを確認することで、遺言者の意思で遺言を書いたことが確認できるのです。
この遺言の保管は、本人自らが法務局に出頭して行う必要があります。また、遺言者が亡くなった後は、遺言者の相続人、受遺者又は遺言執行者は、遺言を確認することができるようになります。
加えて、保管時に本人確認をし、画像情報も残すため、遺言者死亡後の検認は不要となり、その点でも手続きが一つ減ることになります。
3.「自筆証書」「公正証書」どっちがいいの?
自筆証書遺言は「検認」が必要なため、その検認の際に遺言の存在が相続人全員に通知され、争いのもとになるということが少なからずありました。法務局で保管してもらうことで、その「検認」が不要となるという改正は一定の評価ができ、自筆証書遺言の利用推進に繋がるものと思います。
ただ、本人自ら法務局へ出頭しなければ、保管制度の利用はできません。公証人は出張費を支払えば病床に出向いてくれますが、寝たきりのご老人は自筆で遺言を作成できても、保管制度は利用できません。
また、目録をパソコンで作成できるとしても、遺言の本文は自筆しなければならず、その点では大きな負担軽減にはならないようにも感じます。また、その内容や筆跡についての争いがなくなるわけではありません。
今回の改正で、自筆証書遺言が作成・活用しやすくなったのは確かだと思いますが、「公正証書遺言」の方が、確実かつ安全であることに変わりはないと当職は断言します。
ご不明な点がございましたら当事務所へお問い合わせください。