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No.230 離婚と住宅ローン ~先のことを考えて

    ~ 知らなくてもなんとかなるかもしれないけど、知ってたらきっと役立つ情報をお届けします ~                                                    第229号 令和6年8月発行

    A COLUMN ~記事~

    専門家の視点 ~ 話題の「地面師たち」を見て

     

    今話題になっているNetflixのドラマ「地面師たち」を見ました。地面師とは不動産を専門に扱う詐欺師のことで、実際にあった63億円の地面師詐欺事件を基に書かれた小説をドラマ化したものです。普段ドラマはほとんど見ない当職ですが、完全に引き込まれ、全7話を一日で見きってしまいました。

    引き込まれた理由は2つ。1つは、物語として純粋に面白く、演出や出演者の演技も上質であったこと。物腰やわらかであるのに冷酷で狂気をはらんだ豊川悦司、無感情に見えて執念を内に秘めた綾野剛らの演技も秀逸で、ドラマとしての出来が非常に優れていたのではないかと思います。ばれるかばれないかのギリギリの連続、スリルとサスペンスな展開に魅了されました。

    もう1つの理由は、司法書士が普段携わる「不動産取引」についてのドラマであったことです。司法書士は、不動産取引の現場に立ち会います。ドラマの中でも2人の司法書士が騙されるシーンが描かれるのですが、もし自分が当事者の司法書士であったら事件をくい止めることができたのだろうか?と考えさせられました。このドラマを見た方はわかると思いますが、ドラマの中の司法書士は優秀で慎重でした。そんな彼らでも、入念な準備をした地面師には騙されてしまうのです。はっきり言ってしまうと、当職でも騙されていたかもしれません。

    ただ、実際の63億円地面師事件では、なりすました偽の売主が生年月日や干支を間違えた等、ドラマよりずっとずさんな手口であったそうです。当職であったら司法書士として取引をストップできていたかもしれません。が、実際のところは当事者になってみないとわからないと言うのが本音です。

    当職は何十億もの不動産取引に立ち会った経験はありません。ただ、日常扱う数千万円レベルの不動産取引だとしてもとてつもない大金です。騙されたら当事者は人生を狂わされてしまうかもしれません。普段から慎重に、厳格に業務にあたってはいるつもりではいるのですが、ドラマを見て「もっと慎重に、もっと厳格に」と襟を正すきっかけになったように思います。

    ちなみに、もう1点、このドラマを見て思ったこと。過去に何千件と不動産取引の立会とその登記を行ってきた専門家の当職の視点から言わせていただくと、「もっと上手に騙す方法があるんじゃないの?」ってこと。ここに書いてしまうといろいろと問題があるので書きませんが、興味がある方は当職に直接聞いてください。でも絶対に実行に移してはいけませんよ。

    『地面師は「仕事」じゃないですよ。「犯罪」です。』

     

     

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    EXPLANATION ~解説~

    離婚と住宅ローン ~先のことを考えて

     

    離婚時の財産分与で、自宅を夫婦どちらかの名義に変更するといった依頼はよくあります。本通信でも取り上げたことはありますが、当事者お二人が合意しているのであれば、財産分与による所有権移転登記は決して難しい手続ではありません。難しいのは「住宅ローン」が残っている場合です。

    住宅ローンが残っている場合、自宅に金融機関の「抵当権設定」の登記がなされています。この抵当権を消すなり、債務者を変更するなりしなければ、後に大きな問題が生じます。ただ、離婚の当事者同士だけでできる手続ではありません。金融機関が了承してくれない限り、手続をすることはできないのです。

     

     

    1 住宅ローンを完済する(抵当権抹消) 

    一番望ましいのは「住宅ローン」を完済することでしょう。金融機関も、完済してくれるのであれば文句は言いません。完済すれば、当然金融機関も「抵当権抹消登記」に協力してくれます。多少の繰り上げ返済の手数料は必要かも知れませんが、完済できるだけの原資があれば完済して、抵当権を抹消することが、後のトラブルを避けるために一番の方法でしょう。

     

     

    2 住宅ローンの債務者を変更する(抵当権変更) 

    住宅ローンの債務者が夫、離婚後自宅に住み続けるのが妻である場合。自宅の名義(所有権)を財産分与で妻に変更しても、金融機関に返済義務を負うのは夫のままです。夫は住んでいない家のローンを払い続けなければいけないし、妻も夫が返済を滞って競売にかけられたら自宅を失うことになってしまいます。妻自身に十分な収入(返済能力)がなければ、金融機関はなかなか応じてくれませんが、住宅ローンの債務者を妻に変更できれば、そういった心配はなくなります。登記手続としては、金融機関と自宅の所有者(妻)が抵当権の債務者を変更する登記を申請することになります。

     

     

    3 住宅ローンを借り換える(抵当権抹消・抵当権設定) 

    住宅ローンの債務者の変更は、妻が夫と同程度以上の返済能力がなければ金融機関は応じてくれません。ただ、借り換えであれば応じてもらえる可能性は高まります。住宅ローンの残債と同額の住宅ローンを妻が新たに借入れ、借りたお金で元々の住宅ローンを完済します。金融機関は元の住宅ローンとは別のところに依頼をすることも可能です。完済をすれば、抵当権の抹消登記も可能です。もちろん、新たな住宅ローンについて別の抵当権設定登記をする必要があります。

    ※ 実務上、融資と同時に抵当権を設定する必要があり、完済しないと元の抵当権は抹消してもらえないため、

     ①新たな住宅ローンの抵当権設定登記 → ②元の抵当権抹消登記 の順に行うことになります。

     

     

    4 自宅を売却して住宅ローンの返済に充てる(所有権移転・抵当権抹消)

    自宅を失うことにはなってしまいますが、売却して売買代金を住宅ローンの返済に充てるのが一番シンプルだとも言えます。買主から払ってもらった売買代金を住宅ローンの返済に充てて完済ができれば、抵当権も抹消してもらえます。この場合、買主への所有権移転登記と同時に抵当権抹消登記を行います。

    ※ 売却代金より住宅ローンの残債が多い場合(住宅ローンを完済できない場合)でも、金融機関が抵当権抹消に応じてくれる場合もあります(任意売却)。当然、残ってしまった住宅ローンは払い続けなければなりませんが‥

     

     

     お勧めはしませんが、リスクを承知で住宅ローンをそのままにして所有権の名義のみを変えるケースもあります(債務者は夫のまま実際には妻が返済する、夫が払い続ける等)。住宅ローンの完済まで数十年係る場合もあります。今はそれでよくても、先のことまではわかりません。十分に考えて手続を選択しましょう。

     

    ご不明な点がございましたら、当事務所へお問い合わせください。

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