相続

No.170 配偶者居住権

    ~ 知らなくてもなんとかなるかもしれないけど、知ってたらきっと役立つ情報をお届けします ~

    第170号 令和元年8月 発行

    配偶者居住権 ~ 残された妻(夫)のために

    A COLUMN ~記事~

    あまのじゃく ~ 初めての花火大会

     
    岡崎と言えばというくらい有名な三河花火。花火が見えるかどうかでマンションの値段も大きく変わると言われる「岡崎の花火大会」に、岡崎で生まれて45年、うち38年を岡崎で過ごした当職が初めて行ってきました。今まで、スーパーの立駐から眺めたり、会場から遠く離れた場所で小さく見える花火を見ながらバーベキューをしたり、「これで十分」と会場近くまで行って、本格的に花火を見たことはありませんでした。ただ今年は一念発起、桟敷席を取って花火鑑賞をしてきました。

    そもそも、当職は「あまのじゃく」です。ミーハーが嫌い、人混みが嫌い、皆が良いと言うものにはあえて参加しないということを貫いて40数年生きてきました。ただ、年齢を重ねると人間素直になるもので、皆が良いと言うんだから、素直に認めようと思うようになって、「花火、行ってみようかな…」となりました。

    いざ行ってみると、交通機関も大混雑、大変な暑さとすごい人混み、屋台で食べ物を買うにも大行列…。大変でしたがそんな困難を補ってあまりあるほどの見事な花火でした。大迫力の打ち上げ花火の美しさはもちろん、身体に響く花火の音も、鼻をくすぐる火薬の匂いも、気持ちを高揚させるものでした。

    あまのじゃくな自分性格のせいで、40数年花火を見逃してきました。人間、素直にならないと損をする。仕事でも、プライベートでも、よいものはよいと認めるようにならなきゃな、と改めて感じた一夜でした。

    でも、場所取りは嫌なので来年も奮発して桟敷かな。
     

    EXPLANATION ~解説~

    配偶者居住権 ~ 残された妻(夫)のために

    相続法が改正され、来年、2020年4月よ「配偶者居住権」という権利が認められるようになります。

    残された妻(夫)が、住むところを失わないよう、住むところを確保しても生活に困窮するなんてことがないようにと新設された制度です。 施行されると、今回の相続法改正の中でも、比較的大きな影響が出る制度と思われますので、そのさわりだけでも解説したいと思います。

    1.「配偶者居住権」とは

     配偶者居住権とは、「相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、ずっと住んでていいですよ」という権利です。

     「配偶者が自宅の権利を相続しなかったとしても」というのがポイントです。当然のことですが、配偶者が自宅の権利を相続すれば、誰に文句を言われることもなく、その自宅に住み続けることができます。一方、自宅を相続しなかった場合、最悪、住むところを失ってしまいます。例えば、自宅を息子が相続した場合、息子の家に母親は住まわせてもらうことになります。その息子が、「気が変わった」と言って、自宅を売りに出したらどうなるか?順番を間違えて息子が先に死んで、自宅を嫁が相続したらどうなるか?

    そこで、「配偶者が自宅を相続しなかったとしても」、その自宅に住み続ける権利だけは認めましょう!と配偶者居住権が新設されたのです。

    不動産には「所有権」という権利があります。この所有権という権利は、その不動産を「使う(住む)権利」と、その不動産を売却した時に、売却代金をもらう権利などの「その他の権利」2つがセットになって、構成されています。

    配偶者居住権という仕組みは、所有権という権利を、「使う(住む)権利」と「その他の権利」に分離をして、別々の人が相続することを認める仕組みです。

    例えば、「自宅は息子が相続するけど、妻に配偶者居住権を認める」とした場合、妻が「使う(住む)権利」を、息子が「その他の権利」を取得したというイメージになります。

    2.事例

    夫が4000万円の価値のある自宅と、預金4000万円を遺して亡くなったとします。相続人は、妻と息子の2人。妻と息子は仲が悪く、お互いに相続財産の半分を取得すると譲らなかった場合を想定してください。

    妻は住むところがなくなっては困るので、自宅を取得。残りの預金すべてを息子が所得した場合。妻は住むところは確保できても、今後の生活費が確保できなくなってしまいます。

    高齢である妻が、住み慣れた自宅を売却し、新しい住まいを見つけるのは大変な話です。高齢者の方は比較的、賃貸物件を借りる際も審査が厳しい傾向にありますし、住み慣れない町に引っ越すことは、非常に大きなストレスになります。

    そこで、自宅は4000万円の価値がありますが、これを配偶者居住権と、その他の権利の2つに分離させます。仮に配偶者居住権の価値が2000万円で、その他の権利が2000万円だったとします。

    妻は、自宅に住み続けることが目的ですので、配偶者居住権があれば目的は達成されます。そのため、夫の遺産8000万円のうち、2000万円の配偶者居住権と2000万円の預金の合計4000万円を相続することができれば、住み続ける権利も保証され、今後の生活費も確保できますので、安心となるのです。

    3.配偶者居住権の要件と注意点

    ① 配偶者居住権は、相続発生した時点で、その自宅に住んでいた配偶者にだけ認められ、かつ、配偶者居住権の登記が必要になります。

    配偶者居住権は、元所有者に相続が発生した時点で、その自宅に住んでいた配偶者にだけ認められるので、別居をしていた夫婦の間では認められません。

    また、配偶者居住権は、不動産の登記をしなければ効力を発揮しません。遺産分割協議で配偶者居住権を相続することが決まっていても、登記をしないままにしていると、新しい所有者が勝手に売却してしまうかもしれませんので、注意しましょう。

    ② 配偶者居住権を処分(売却等)すること、相続することはできません。

    配偶者居住権を相続した配偶者は、その権利を売却することはできません。この権利は、あくまで配偶者にだけ認められた特別な権利なのです。そのため、人に売却することはできません。

    また、配偶者居住権は、その配偶者の死亡によって消滅するため、その権利を誰かに相続させたりすることもできません。

     

    ご不明な点がございましたら当事務所へお問い合わせください。

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